意味のイノベーションとは

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今回は一部で話題になっている、「意味のイノベーション」をとりあげてみたいと思います。意味のイノベーションとは、ミラノ工科大学の教授、ロベルト・ベルガンティによる著書Over Crowded -Designing Meaningful Products in a World Awash with Ideas(日本語版タイトル:突破するデザイン)の”Meaningful innovation”を日本語版にするにあたり訳した言葉で明確な定義はないものの、デザイン思考と対をなす概念あるいは方法論ととらえれば良いと思います。

意味のイノベーションとは何か

意味のイノベーションとは何かを理解するには、ロベルト・ベルガンティ自身によるTEDのプレゼンテーションを見るのが手っ取り早いかもしれませんが(英語ですがnoteで日本語訳をしてくれている方もいます。)ここではプレゼンテーションの内容を交えて簡単に説明します。まず、例として白熱電球を取り上げます。白熱電球はかつて家庭において照明として使用されていたロウソクの代用品として、意味のあるプロダクトでした。しかし今日はLEDやスマホなどいくらでも代替品のある時代であり、白熱電球はかつての意味は失ってしまいました。ましてや家庭用のロウソクなどはほとんど需要はないように思えますが、実は1990年代以降、家庭用のロウソクの出荷量は急激に伸びていて、その代表が近年創業したYankee Candleというアメリカのトップアロマキャンドルブランドです。Yankee Candleはそれまでの照明としての家庭用ロウソクに、空間に香りや暖かな光によって心地よさををもたらすという新しい意味を与えたのであり、これが意味のイノベーションの一例となります。

意味のイノベーションが必要な背景

プレゼンテーションでは、白熱電球は過去のイノベーションを象徴するプロダクトとしてとりあげていると同時に、現代を表す演出道具としても使用していて、「今日の世界はアイデアを集めようとすればネットによっていくらでも簡単に集まるが、世界は今明るすぎて人々は製品の意味を見失っている、本当に人々が求めているのは暗がりなのだ」とおもむろに電球を消します。照明の意味を「部屋を明るくするもの」としてのみ捉えていては、Yankee Candleのような製品を生み出すことはできない、つまり、たくさんのアイデアから意味のあるものを生み出すことが現代では難しくなっている、というのが意味のイノベーションの前提となる考え方となります。

意味のイノベーションとブランディング

ここにデザイン思考/Design Thinkingと対をなすと書いた理由があります。デザイン思考は現在、製品やサービスを生み出すフレームワークとして関連書籍が多く出版されるなど近年国内でも広く認知されつつあるようですが、本書では意味のイノベーションをデザイン思考との比較のなかで、対をなすものとして時には批判的に考え方や手法の違いを解説しています。つまり外部からたくさんのアイデアを集め、製品やサービスを発想していく手法がデザイン思考的「アウトサイド・イン」(外から内へ)ならば、意味のイノベーションは「インサイド・アウト」(内から外へ)であるとします。ここでの「内」とは発想の主体としての個人です。また、デザイン思考が問題解決型のフレームワークであるのに対し、意味のイノベーションでは人々はもはや問題解決に価値を置いてはいないとし、人々の内にある顕在化していない深い動機やニーズを重視し、それらを実現するビジョンをまず作り上げるべきだと説きます。実は今回意味のイノベーションを取り上げたのは、この点においてブランディングとの親和性を感じているからでもあります。

一見、発想の主体を個人や組織とすることは、マーケティングを主流とする現代的な手法とは真逆ともいえ、果たしてそんな事が可能なのかとも思えそうですが、そもそも考えてみれば、革新的と言われるプロダクトはappleしかり様々なデジタルサービスしかり創業者やトップ個人の発想が原点である事がほとんどです。しかし既存の企業がそのような強力な行動力とビジョンを持つ個人の登場をいつまでも待つことはできない。意味のイノベーションは、そうした既存企業が、革新的な製品やサービスを生み出すプロセスや手法を具体的にフレームワーク化しています。興味がある方はぜひご一読をおすすめいたします。

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