カフェ・喫茶店のブランディング-ポジショニングと提供価値-

ブランドのポジショニングと提供価値を考える

ブランディングでは提供価値という言葉がよく使われます。提供価値は実利価値、情緒的価値、自己実現価値、社会的価値などに分類することができますが、それぞれの詳しい説明は別の機会にするとして、ここではカフェを例にブランドの提供価値考えてみたいと思います。

一般的にカフェの提供価値は情緒的価値の比率が大きいと言えます。メニューの美味しさ、心地よい接客や店内のレイアウト、インテリアデザインなどカフェの価値の大部分決定づける要素は情緒的価値に含まれます。また適切な商品の価格や利用しやすい立地は実利価値に含まれます。現在展開するチェーンを見ていくと、それぞれのブランドには提供価値に違いがあり、ブランドのポジショニングやセグメンテーションによって棲み分けされ決定されていることがわかります。

ポジショニングが明解なブランドとしてはスターバックスが挙げられます。スターバックスは自分たちの店舗を喫茶店やカフェではなくサードプレイス(第三の場所)と位置づけています。自宅が第一の場所、職場が第二の場所であるとすれば、第三の場所はおいしいコーヒーを飲みながら仲間どうしでおしゃべりしたり、ひとりで読書をしたり、ちょっとした仕事をしたりするのにふさわしい、リラックスできる空間です。つまりスターバックスの提供価値とは、美味しいコーヒーだけでなく、店舗での体験全てであり、それらをサードプレイスというポジショニングによって定義づけたのです。

ブランドのポジショニングを決定することは、ターゲットとする人たちにどのように商品・サービスを提供するかを考えるうえでの指針となります。カフェのブランディングでは、地域の競合や、既存の業態にはない独自のポジショニングを見つけることが鍵となります。

サードプレイスが開拓した市場

ここでカフェの歴史を少しだけさかのぼってみます。スターバックスが上陸する以前、国内で、主にコーヒーをメニューとして提供するお店の業態は喫茶店だけでした。当時の喫茶店は、タバコで煙たい店内、ドリップコーヒーとチープな軽食メニュー、客層もサラリーマンや近所のおじさんたちというイメージでした。スターバックスはサードプレイスというポジショニングによって喫茶店がそれまでとりこぼしていた市場を新たに開拓したのです。シアトルスタイルのエスプレッソベースの濃厚なカフェラテは、日本人のそれまでのコーヒーに対する認識を変えるインパクトがあり、いままでの喫茶店の雰囲気とは全く異なるゆったりと落ち着いた店内は、目新しさもあって若い女性層にもアピールしました。

その後スターバックスを契機にしたカフェブームがおこり、2000年代以降、カフェは多様性をたどることになります。インテリアとカフェ飯を追求したWIRED CAFEや、チョコクロという看板メニューで成功したサンルクカフェ、喫茶店の拡張業態ともいえるご当地カフェのコメダ珈琲の全国進出、スフレパンケーキをヒットさせFCを拡大させた星乃珈琲、ドリップコーヒーの美味しさを追求しサードウェイブブームの象徴となったブルーボトルコーヒーなど、サードプレイスが開拓した市場を下地に、様々なスタイルの業態を生み出しました。

言葉で表現するメリット

年月とともにスターバックスは店舗数も増え、以前ほどの目新しさはなくなりましたが、変化する市場に合わせ様々な業態や実験的な施策を打ち出しながらもブランドの核となる部分は変えることなく現在も支持されています。スターバックスがブランドとして強固な地位を築けた理由はたくさんありますが、サードプレイスという明確なポジショニングによって、スターバックスにしかない価値を提供し続けたことがその一員であることは間違いないでしょう。

ブランドのポジショニングを決定するだけでなく、それを明確な言葉で表現することは、市場に対してブランドの価値を伝達し認知してもらうという点で効果的であると同時に、社内においてもブランドの指針への意識の共有がされやすくなり、従業員ひとりひとりがブランドの一員として自覚をもって振る舞うことで、強いブランドとして成長することにもつながるのです。

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